六月晦日記
七月一日。暦は既に新しき月に入りたれど、我が勤め先に於いては、昨日六月三十日こそが年度の大晦日にして、一年の帳を閉じる日なり。外はまだ静かにして、夏の陽だけが容赦なく照す。此処だけの話、世の中が年を越す冬の夜と同じく、静かな区切りの気配が漂う。
回顧すれば、この一年は文字通り手に負えぬ業務の質量にて、実にたいへんのものであった。最大規模の顧客案件——それは単なる仕事の塊ではなく、延々と続く波の如く、押し寄せては退き、退いてはまた押し寄せる。人的な、営業的な取りまとめの艱難は、地図を持たずして暗い海を渡るに似た。一息つく間もなく、現場の部下たちの過酷さは相当なものにして、傍に居て見るに忍び難し。彼らの顔色、声の調子、黙ってこなす日々——凡そこれらが、帳簿には載らぬ重さとして積み重なった。
それでも客の満足は上がり、定量的な結果も出せた。期をまたぐ案件ゆえ困難は今も続く。然れど「なんとかなる」という感覚が、いつの間にか確固たる思考法となり、何事も流れに任せた心持ちにて事が進むようになった。これは楽観でも諦観でもなく、長い橋を渡り終えた者の、淡い確信に近い。
案件以外にも、人的摩擦は少なくなかった。部下への退職勧告を余儀なくされる場面、我に対する反抗反乱、それに伴う組織全体の調整、上意下達の大きな社内事業における厳しい取り仕切り——人は理屈より先に、感情と利害で動く。其の渦中に立つ者は、時に判官の如く、時に泥を被る者の如く、両方の役を演じねばならぬ。
然れど、此の一年で最も心を温めたのは、部下の成長であった。初めは青く、言葉に詰まる者も、幾度かの波を越え、自分の足で立ち、人を導く端緒を見せる。其の変化を目の当たりにした時、苦労の報いというより、師としての喜び——言葉にし難きものが、胸の奥に静かに灯った。
それでも一定の成果は出せ、来季への礎も築けた。社内に於いては、もはや引退を考えねばならぬ年齢に至った。然れど、困難と戦う挑戦心と、やる気のみは未だ衰えぬ。心身ともにボロボロながら、その気持ちを持ち得ること——六月晦日を越え、七月の朝、これのみを確かな事実として、今日は感謝したい。