まちがった

かなり大変だった仕事の帰り道である。北朝霞の駅で、初めて入ったそば屋の晩飯だった。
コロッケがついてきた。オッ、いいですね、これは今日がんばったご褒美かしら、と私は思った。人間は、少し得をすると、すぐに自分の手柄にする。そばを頼んだだけである。
そこへ厨房のおばちゃんが来た。「あーまちがった!」
奪っていった。遠慮も弁解もない。まちがいはまちがいだ、という顔である。皿の上からコロッケは消えた。残ったそばは、悪くない。ご褒美は消えたが、今日の仕事まで消えたわけではない。長い一日の終わりに、人のまちがいを、人の声で聞けるのは、わるくない。おばちゃんの「あーまちがった!」のほうが、よほど正直で、よほど人情くさい。私はそばをすすりながら、少し笑った。哀れな一日ではあった。だが、わるい一日ではなかった。