広告の瓦礫に花は咲くか
わたくしは長いあひだ、インターネットといふ野原で、ごはんをいただいてきたものです。ですからこれから書くことは、ほんたうは口にしてはいけないことなのかもしれません。けれども、言はずにゐると胸のなかがしんしんと冷えてくるので、やっぱり書いておきます。
広告で無料のコンテンツをくばるしくみは、はやく崩れてしまへばいい。わたくしはずっとさう思ってきました。
画面をひらくと、ほしかった情報や機能のうへに、ぎらぎらした広告がいくつもいくつも降ってきます。それもたいていは下品な、目をそむけたくなるやうなものです。何万人にひとりがうっかりクリックすれば、それで帳尻が合ふ。そのために、きれいな文章も、よくできたアプリも、色のどぎつい瓦礫の下に埋められていくのでした。
もちろん、すべての広告が汚いわけではありません。すばらしい広告はたくさんありましたし、さういふお客さんとのしごとは、いまでもあたたかい思ひ出です。わたくしが嘆いてゐるのは、その瓦礫にすがるほかなくなったメディアの、すがたのはうなのです。
焼畑なら、焼いたあとに穂が実ります。けれどもこの野原は、焼き尽くしたあとに何も残りませんでした。
それなら、お金をいただくしくみに変へればいいではないか。さう考へたこともありました。けれどもそれは、i-modeのころの、うまくいった夢の名残りにすぎません。月に一円でも、もう誰も払ってはくれないのです。払ってもらへたとしても、そのかはりに差し出せるのが「広告が出ません」といふことだけだとしたら、なんだかをかしな話です。
推しといふことばや、オンラインサロンといふものもあらはれました。それはひとを信じさせ、祈らせるしくみで、わたくしが手がけてきた、情報や機能をとどけるしごととは、根っこのところでちがってゐました。
いちどだけ、Web3といふあたらしい風に、のぞみをかけたことがあります。ほんのちいさなトークンが、すきとほった水のやうに野原をめぐれば、汚い広告に頼らなくてもいいのではないか。けれどもそのトークンが流れだすまへに、いろいろなものが泡になって消えてしまひました。つかのまの夢でした。わたくしはそこで、インターネットとは汚い広告の瓦礫に埋もれていくものなのだと、あきらめたのです。
そこへ、生成AIがやってきました。
はじめのうちは、もっとひどいことになりました。AIは疲れも知らずに、中身のうすい文章をざあざあと吐きだしつづけました。きれいなコンテンツが広告に埋められるのを憂へてゐたのに、こんどはコンテンツそのものが、産業廃棄物のやうに積みあがっていったのです。ある日のニュースでは、世のなかのほとんどのサイトで、トラフィックの半分よりおほくがbotになったと伝へてゐました。人の見てゐない画面に、人の見てゐない広告が、しづかに映りつづけてゐるのです。広告のしくみが、こんなかたちで崩れていくとは、わたくしは思ってもみませんでした。
けれども、その瓦礫のすきまに、ひとすぢの青い光が見えたのです。
それは、わたくしたちがもう、インターネットのしごとの、ただのコンシューマでゐなくてもいいらしい、といふことでした。
これまで、コンテンツやアプリを作るにはお金がいりました。事業になってゐなければ、あのコンテンツもあの機能も、わたくしたちの手にはとどきませんでした。けれどもいまは、週末にPCにむかってAIと話してゐるうちに、ほしかったアプリができてしまふのです。もちろんお金は少しはいります。けれども、事業にする必要はありません。広告はひとつも出ません。ほしい情報だけが、ちゃんと見えて、ちゃんと使へます。
わたくしはふと、むかし花巻で書いた、ちいさな講義のノートを思ひだしました。
「職業芸術家は一度亡びねばならぬ」「誰人もみな芸術家たる感受をなせ」
田んぼで働くひとが、そのまま歌をうたひ、劇をつくり、じぶんたちでたのしむ。誰かに売るためではなく、じぶんたちの暮らしのために芸術をつくる。あのころは、それはずいぶん遠い夢のやうに思はれました。
誰かのために作ってお金を稼ぐアプリではなく、じぶんのために作って、じぶんで使ふアプリ。OSはAIで、アプリはひとりひとりのもの。
それはもしかすると、あの日わたくしが夢みた農民芸術の、いちばんあたらしいすがたなのかもしれません。
もちろん、この見とほしもまた、つかのまの夢で終はるのかもしれません。Web3のときのやうに、朝になれば泡と消えてゐるのかもしれません。それでもわたくしは、広告の瓦礫のあひだから、ちいさな、名もない花がいくつもいくつも咲きだすのを、いま、たしかに見てゐるやうな気がするのです。
すばらしい時代が、きたのです。
広告モデルを嫌いながらも広告事業で無料コンテンツを提供するビジネスモデルは早く崩壊してほしいと思ってきた。広告モデルを嫌いながらも、その後については提案も想像もできないでいた。X