試験

一月二十七日の朝、私は家の近くのテストセンターに向かった。AWS認定AIプラクティショナー(AIF-C01)を受けるためである。
この資格は、巷では人工知能に関する知識を問うものだと言われている。難易度が高いことで知られており、私の職場でも話題になっていた。同僚が次々と合格を手にした。彼らの誇らしげな顔を見るたびに、私の中で何かが疼いた。
「お前も受けたらどうだ」
何気ない一言が、私を動かした。いや、正確に言えば、私はその言葉に背中を押されたかったのかもしれない。
試験日の五日前から、私は学習を始めた。Bedrock、SageMaker、RAG、ファインチューニング、バッチ推論——カタカナと英語が並ぶ専門用語の羅列に、最初は目眩がした。だが、通勤電車の中で参考書を開き、一日一時間だけ、そう決めて取り組んだ。
三日目に、練習問題を解いてみた。結果は惨憺たるものだった。正答率は五割にも満たない。この時点で、私は自分の甘さを思い知った。
昨夜、私は眠ることができなかった。明け方近くまで参考書を読み、今朝も試験開始時刻の直前まで、喫茶店で最後の詰め込みをした。苦いコーヒーを啜りながら、私は焦燥感に駆られていた。
テストセンターの受付で本人確認を済ませ、小さな個室に案内された。パーティションで区切られた狭い空間に、モニターとキーボードだけがある。隣の席からは、かすかにマウスをクリックする音が聞こえてくる。
試験が始まった。
最初の十問は、驚くほど簡単に思えた。「ああ、これなら大丈夫だ」——そう思った瞬間、私の心は軽くなった。だが、それは束の間の安堵だった。
十一問目から、様相が一変した。問題文が長くなり、選択肢の内容が微妙に似通ってくる。私は一つ一つの単語を追いながら、必死に記憶を手繰り寄せようとした。だが、昨夜詰め込んだ知識は、砂のように指の間からこぼれ落ちていく。
時計を見ると、残り時間は半分を切っていた。焦りが焦りを呼ぶ。冷静さを失った私は、もはや問題文を正確に読むことすらできなくなっていた。
試験が終わった時、私は深い脱力感に襲われた。
帰り道、私は自分の愚かさを噛みしめていた。なぜもっと早くから準備をしなかったのか。なぜ一日一時間などという中途半端な勉強で済ませようとしたのか。同僚たちは、きっともっと計画的に、もっと真剣に取り組んだに違いない。
結果は明日の朝、メールで通知されるという。
今、私は自宅の机に向かって、この文章を書いている。窓の外は暗い。冬の夜は長い。
明日の朝が来るのが怖い。いや、正確に言えば、結果を知るのが怖いのではない。私が恐れているのは、自分の準備不足という事実と、改めて向き合うことなのかもしれない。
それでも、明日は来る。メールは届く。そして私は、その結果を受け入れなければならない。
合格か、不合格か——。
その二文字が、今夜の私を苛む。
よかった、合格できた。
