地震の記憶

午後六時、地面が揺れた。
地震が来ると、僕の体は恐怖で石のように固まってしまう。どうしようもないのだ、この体は。
僕は日本の西で生まれた。子供の頃、地震なんてほとんど知らなかった。大地は静かで、優しくて、裏切ることなんてないと思っていた。
大学を出て、名古屋で働き始めた。新入社員だった。あの朝、僕はいつもより一時間早く目が覚めた。習慣でテレビをつけた。
ヘリコプターからの映像が映っていた。街に大きな炎が見えた。起きたばかりで、頭が働かない。でもゆっくりと、ああ、これは何だ、と理解し始めた。
神戸の街だった。阪神淡路大震災だった。
関西では地震なんて滅多に起こらない。信じられなかった。京都の母に電話をかけた。繋がらない。繋がらないのだ。
会社に行った。大阪支店と電話が繋がらないと聞いた。新幹線が名古屋駅で止まっているとも。
夕方になって、やっと母と話せた。母の声を聞いて、ああ、生きているのだと思った。誰も信じられなかった、あんなことが起こるなんて。
それから東京に移った。そこでまた地震を経験した。東日本大震災だった。
僕たち日本人は、いつも大きな地震を恐れている。いつ来るかわからない。今日かもしれない、明日かもしれない。
大地が揺れる度に、僕は思い出す。あの朝のテレビの映像を。繋がらなかった電話を。止まった新幹線を。
地震が来ると、体が固まる。恐怖で、記憶で、固まってしまうのだ。
平和を祈る。ただ、祈るしかないのだ。
揺れない大地を、静かな朝を、安心して眠れる夜を。
祈る、ただ祈る。それしか、僕にはできないのだから。